コラム
地域産後メンタルヘルスにおける精神科の役割
西園マーハ文(明治学院大学)、精神科医、理事
東京都心の区で、2000年から、産後メンタルヘルス支援の仕事を続けている。区内保健センターでの乳児健診の時に、エジンバラ産後うつ病質問票というアンケートを配布し、高得点者を中心に面接をして支援につなげるものである。心理職や保健師との協働で支援を行っている。面接をすると、産後うつ病という診断が最も多いが、それ以外の診断もあり、うつ病プラスさまざまな併存症ということも多い。これは、産後の地域保健センターでの支援だが、近年、産前は、「切れ目ない支援」を目指して、産科医や助産師の方々が、産後支援が必要だろうと思われる方々に声をかけて下さっている。産前に支援対象として挙がるのは、既に精神科治療を受けている方以外としては、どちらかというと若い世代だったり、シングル親や、経済面に不安がある場合が多いようである。一方、私が産後数か月のスクリーニングで出会う中には、産前には特に問題はなく、仕事もハイレベルでやっていたが、子育てで家にいることに慣れないといったタイプも多い。
昨年来、妊産婦の自殺が多いことが話題になっており、このような資料も公開されている。
https://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/11/3bd9b6256769e55154e241912e123866.pdf
妊娠中と産後1年以内の女性の調査で、上記両方の層が含まれるように思われる。妊産婦の自殺は、それ以外の人口に比べて高率というわけではないが、数としては増加傾向である。2022年度の54例中、精神科受診歴のある30例について見ると、自殺の1週間以内に精神科を受診していた人が12例であり、その半数は2日以内に受診していたという。「精神科受診が必ずしも自殺防止につながっていない可能性がある」という結論になっているのは大変残念な事態である。症状や生活状況の詳細は不明だが、この中には、診察した精神科医も症状の深刻さを認識して入院を勧めたが、児の世話をする人がおらず、入院に至らなかったような場合もあるだろうと推測する。しかし一方で、診察の中では希死念慮を強く訴えなかった場合もあるのかもしれない。妊産婦に自殺が起き得るということを良く知り、精神科受診が役に立ったと言われるような支援を行っていく必要があることを痛感する。