学会概要
理事長挨拶
一般社団法人日本社会精神医学会(Japanese Society for Social Psychiatry, JSSP)は、1981(昭和56)年4月、千葉県市川市の国立精神衛生研究所で、社会精神医学領域の研究を推進し、その進歩・発展・普及に貢献することを目的として発足しました。
クロルプロマジンの発見(1952)と精神科臨床における普及は、統合失調症をはじめとする精神症における精神症状のコントロールを可能にし、臨床現場を激変させました。欧米においては精神病院における長期入院治療の時代は終わりを告げ、脱施設化による地域ケアの発展が求められる時代を迎えました。
1960年代、70年代においては、精神衛生の向上を目指す基礎的なデータ収集が進み、疫学を中心とする社会精神医学研究を推進する必要性についての認識が高まりました。わが国においても、精神科医を中心とした、精神障害の心理社会的・疫学的研究と精神科医療の実践に基づいた調査研究の発表および研究交流の場として、1978年から雑誌「社会精神医学」が刊行されるようになり、まもなく学会活動へと発展しました。
社会精神医学の担う範囲は実に幅広く奥深いものです。医学は個体の健康や予防、治療に起源を発する学問であり、生物学としての医学の視点で見れば、精神医学の対象は脳になります。社会は個体の集合であり、脳と脳のインタラクション、あるいは脳と環境とのインタラクションが社会を形成しているとも言えましょう。
精神医学は人の社会的な営みを対象とする科学であり、関係性を観察し考察する視点を求められる領域です。しかし社会は常に変容しています。インターネットの出現と普及により、人類のコミュニケーション手段は大きく変わりました。人が出会う導線も変わりました。さらに、未曾有の少子超高齢・人口減少社会を迎えわが国では人口構成も大きく変化しています。外国人が増え、非正規雇用や貧困により格差が拡大する中で、家族の有り様や個人の価値感に加え、個体としての個人の不安や緊張の持ちようも変化しています。
このように個体を通じて全体を見渡し、全体を把握して個体へ還元することを通じて、いち早く社会精神医学的な新たな問題やニーズの存在に気づき提起することこそ日本社会精神学会の使命です。学会内での議論や研究の成果は専門家間の共有だけでは意義が乏しく、学術大会と学会誌を駆使して討論の場を広げてよりわかりやすい形で、日頃から社会精神医学的な話題提供とリテラシーの拡大に努めて参りたいと思います。
当学会では多職種の参加を歓迎しています。学会組織が多様なものであることが、私たちの発想を豊かにし、多様な臨床精神医学の姿を語れる場になれるのであり、それには様々な場面で多くの方に学会活動に触れて頂き、社会精神医学を知って頂く必要があると思います。私自身、当学会には1996年に入会させて頂いて以来四半世紀にわたり、臨床精神医学の多様な側面を様々な角度から勉強する機会を頂いて参りました。いわば精神科医としての基礎を作り、発表の機会を与えてくださった学会です。これまで以上に、当学会の発展とここに集う多くの、特に多職種にわたる若い会員のみなさんが社会精神医学的素養を得てさらに成長される場となるよう、微力を尽くしたいと思います。
日本社会精神医学会をどうぞよろしくお願いいたします。
水野雅文(東京都立松沢病院院長)
略歴
1986年慶應義塾大学医学部卒業、1992年同大学院医学研究科博士課程修了、1993-95年イタリア政府給費留学生としてパドヴァ大学心理学科留学、同visiting professor。帰国後、慶應義塾大学医学部精神神経科学教室講師、助教授を経て2006年東邦大学医学部精神神経医学講座教授就任。2021年より東京都立松沢病院院長。本学会活動としては、2001年4月監事、2004年第13巻から本誌編集委員、2006年4月常任理事、2008年第17巻から編集委員長。2010年から副理事長。2016年から理事長。