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コラム

占いと精神医学

須田史朗(自治医科大学)、精神科医、理事

少し昔の話になりますが、友人の知人である占い師の方とお話をする機会がありました。その際、私が精神科医であることを伝えましたら、「同業者ですね」という言葉が返ってきました。その方は、「占いは心理学のようなものである」という考えをお持ちで、現場ではクライアントの状態をみて、結果を相手が望むような形に少し修正して伝えることが多いとのことでした。それを聞いてなるほど、とは思いましたが、内申穏やかではありませんでした。というのも、私自身がこうした非科学的な?雰囲気のある分野があまり好きではないからです。同業者と思っていただきたくない、というのが本音でしたが、その時の占い師の方の笑顔がとても印象的で、ああ、この方はこうやって人を安心させるのだな、参考にしなければ、と感心しながら頭を切り替え、私も最大限の笑顔で対応したことをよく覚えています。

ついでに述べますが、私が非科学的?なものが好きでなくなったのは、とあるマジックショーに参加したことがきっかけであります。ボランティアに好きな絵を書かせ、その内容を演者がテレパシーで受け取る、というコーナーで私が指名されました。そこでサインペンを渡されたのですが、それが普通よりもかなり太く、ペン先の反対側がやたらに重い、という明らかに怪しげな代物でした。私も面食らい、ペンをまじまじと眺めたり、振ったりしていたら、演者の方からものすごくドスの効いた声で「振らないで下さい」と怒られました。タネはわかったようなものでしたので、私も知らない振りをして、ひまわりの絵を可愛く書いて乗り切りました。それでも先方は終始私のことを警戒していたようで、とても気まずかったです。正直、私も申し訳ない、とは思ったのですが、それからはこうしたのについて冷めてしまったのですね。

大分話が脱線しましたが、占いと精神医学はその実践過程において共通するところがあるのは否めません。私達も、検査結果を患者さんたちが受け入れやすいように言葉を選んで伝える、とか、状態によって共感の言葉と励ましの言葉を使い分ける、というようなことをしていますので。もちろん、占いで恩恵を受けておられる方も多いと思いますので、その存在意義を否定するつもりはありません。そうは言っても、精神医学は「医学」の一部である以上、非科学的であってはいけません。しかし社会からの見方は必ずしもそうではないようで、占い、精神科、共通点でネット検索すると実に多くの記事が見つかります。つまり、社会には占いと精神医学を同一視する、あるいは精神医学を非科学的なものと認識している集団が一定数存在するということになります(ここでは占い=非科学的という認識が正しいのかどうか、というツッコミはなしでお願いします)。日本社会精神医学会のミッションの中には、こうした問題をどのように扱うか、ということも含まれていると考え、様々な活動を続けて行く所存です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。