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コラム

対話性のこと

吉村健佑(千葉大学病院)、精神科医・産業医、評議員

さて前回の続きです。さらに精神科医療機関におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)も重要です。第1に電子カルテや看護記録、入院に際しての行政文書の電子化とAIでの作成補助、施設間の共有は必須です。第2に職員のスキルギャップと文化的変化が課題であり「紙文化」を脱却することが必要です。第3に、経済的課題と持続可能な収支が必要で、導入コストへの対策が重要だと考えます。第4に、サイバーセキュリティと法的対応が不可欠であり、クラウド電子カルテの導入などがその一助となると期待しています。これらは精神科に限らず、進めてゆかないと医療全体の効率が改善しないですね。

それもそうですが、もっと具体的な患者さんの近未来の診療フローの変化を想像してみましょう。まず、患者さんのモニタリングが自動化されそうです。例えば、現在問診で得ている患者さんの日々の睡眠の様子や、外出や活動の状況はスマホと連動したスマート・ウォッチなどで情報が収集できそうです。食事の写真から、カロリーや栄養バランスについて把握することもすでに実現しています。本人の「気分」など主観的な評価も、患者報告による状態評価(PRO)で質問用紙とスマホの連動で解決できそうです。現在、千葉大学病院でもNTTコミュニケーションズとの産学共同研究として、外来患者の精神症状の変動について情報収集しています。

上記の「患者モニタリング」がなされたら、その次はその情報の解析と評価を生成AIにしてもらう仕組みと連動したいですよね。生身の医師が確認するよりも見落としがなく、時間もかかりませんし、疲れません。状態の変化を検出して、主治医にアラートを出すことで、重症化予防し、例えば再入院や自死などを防げる可能性が高そうです。

最後にこれらの診療情報の記録を自動化することができたら、かなりの省力化ができます。電子データと音声データの記録とサマライズはもちろん生成AIにしてもらいましょう。上記のフローができると、医療従事者は判断と責任担保、そして患者さんの治療的介入「そのもの」に専念できます。これは医療従事者も望む医療の姿と言えますよね。

近未来の精神科医療は、より効率的で持続可能な形に進化していく必要があり、医療現場の負担軽減と働きやすい環境の整備が進むでしょう。対応が遅れる医療機関・専門職は患者サービスをうまく生み出せず、プレゼンスが低下します。人口が減少して医療資源もなくなってゆくなか、政策とデジタル技術が両輪となって、患者さんに質の高い精神科医療を提供しなくては。できるか否かはこれから次第ですね。