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コラム

終わりなき「問いと紡ぎの螺旋」

大場 義貴(聖隷クリストファー大学)、臨床心理士・精神保健福祉士、評議員

現代社会において、個人の心理的要因だけでなく、社会からの孤立や排除といった構造的な要因がメンタルヘルスに深刻な影響を与えている。この複雑な課題に対し、如何に地域全体で介入し、そして、如何に世代や立場を越えた繋がりを「紡ぐ」か — これが、私たちに課せられた最大の「問い」である。

だが、この重い「問い」に立ち向かうエネルギーを、時々、日常の些細な「解」から得ているのもまた事実だ。「重い課題」から逃避して、いっそ一緒に暮らし始めた保護ネコ達とのことにしようかと、悩んでそのまま寝たある夜、こんな夢をみた。

広い宴会場のような所に、多様な人々が集まり、卓ごとに熱のこもった話をしている。懐かしい人も、もっと話をしなくてはいけなかった人もいる。その宴会場は、まさしく私が長年浜松市で関わってきたNPO E-JAN(遠州精神保健福祉をすすめる市民の会)の活動そのものだ。

ある卓では、かつてのクリニックの患者さんたちが「働きたい」「自立したい」と熱弁をふるっていた。それは、市内に社会復帰施設がほぼゼロだった時代に、彼らの声に導かれ、E-JANを立ち上げ、並行して、援護寮や地域生活支援センターの設立に奔走した原点だ。また別の卓では、司法書士と精神保健福祉士、行政職員が顔を突き合わせている。これは、多重債務者の自殺対策として官民協働で取り組んだ多職種連携「絆プロジェクト」の面々だ。さらに、学生たちと画家さんたちが議論しているのは、かつて竹島先生達と取り組んだ「絵画展」の準備風景だ。

E-JANの取り組みは、民間によるボランティア(インフォーマル)が行政の支援事業(フォーマル)に組み込まれ、それがまた新たな地域活動を生み出していった。若者のひきこもり相談支援事業やサポートステーション事業は、私たちがボランティアで培った「ひきこもり訪問」の知見が行政との協働によって実を結んだ好例である。

微睡みの中でぼんやりと見えてきたのは、この30数年、誰かとつながり、共に悩み、行動し続けてきたものは、一ヶ所で完結する「円環」ではなく、上に、あるいは次へと伸び続ける「螺旋構造」だということだ。その途上で、私たちは時に厳しく揉まれ、時に共に達成感を味わってきた。この「問いと紡ぎの螺旋」は、地域社会の中で、確かな実践力を持った卒業生たちへ、現場で日々奮闘している実践者へ、そして「生きる」を希望としてそれぞれの生活を送っている多くの当事者へと、世代や立場を越えて受け継がれ、今もなお「紡がれ」続けている。

現実に引き戻し、続きを急かすかのように、件のネコが飛び乗って来た。夢から覚めて、さあ、「今日の一歩」を始めよう。