covid-19
「日本人の心に潜む社会的感染症の蔓延」
コロナウイルス感染症の蔓延により私たちの生活は一変しました。2020年5月中旬の段階で、ウイルス感染のリスクそのものは軽減しつつありますが、経済活動や国民生活に対するダメージは計り知れず、社会不安はますます増大しています。
ウイルスによって生じる感染症には3つの段階があると言われています。第1段階は感染症そのものですが、感染が拡大すると感染に対する不安や恐怖から第2段階の「心理的感染症」に発展します。そして、感染が長期化すると徐々に第3段階の「社会的感染症」が現れます。これはウイルス感染への不安や恐怖から生じる嫌悪・差別・偏見が原因となります。
実際に、3月下旬〜4月中旬まではマスクや消毒液の不足によるパニック、マスクを狙った窃盗や強盗が続きました。混乱に乗じた転売と値段のつり上げも問題となりました。これらは「心理的感染症」と言えるでしょう。そして、大型連休の前後から徐々に顕著となっているのが「社会的感染症」です。感染者や感染対策を怠る者に対する国民の視線は厳しいものがあり、嫌悪・差別・偏見の感情は日ごとに大きくなっているように思えます。
こうした社会問題の移り変わりを分析してみますと、初期には感染の不安や恐怖から理性を失って起きる問題が優勢でした。現在の段階では、国民が理性を取り戻し、生活を守ろう、正しいことを続けようと努力した結果、過剰な秩序化が生じているように思えます。このような状態では、周囲に合わせられない者やルール違反をする者に対して排他的な感情が起こりやすくなります。営業を自粛しない飲食店やサービス業に対するバッシングや、自警団と称した私的制裁活動、特別警戒都道府県に指定されていないエリアでの県外ナンバーの車を狙った器物損壊などはまさに「社会的感染症」そのものと言えるでしょう。これらの行為は法に触れる可能性があるばかりでなく、当事者には「大義名分」、すなわち正義感に裏打ちされた確信があるため他者を傷つけていることに対して罪悪感を持ちにくく、自覚もしにくいという問題があります。
「社会的感染症」にならないようにするためには、心の中に潜んでいる排他的な感情を自覚すること、家族や知人、友人の意見を聞き、自分が独断的な考えに陥っていないか日頃から確認していくことが重要となります。社会が闘うべき対象はあくまでも感染症であり、特定の個人ではありません。コロナウイルス感染症の余波はまだまだ続きますので、お互いに気をつけていきたいものです。
須田史朗(自治医科大学 精神医学講座)